仕事大好きエンジニアが半年間パパだけの育休をとった話
件の育休復帰に関する一連のニュースを見ていて、居ても立ってもいられない気持ちになったので筆を執りました。
かれこれ1年前になりますが、7ヶ月ほど育児休業を取りました。 入れ違いで妻は仕事に復帰し、パパ1人での育児休業だったので、期間的にもそうですが今日でもそこそこレアケースではないかなと思います。
自分もそうでしたが、仕事が好きな人ほど長期間職場を離れることに不安や抵抗があると思います。 自分の経験を共有することで、そんなパパの育休取得を少しでも後押しすることができれば...
TL;DR
- なぜ育休をとったの?
- 夫婦間での公平性。育児で女性だけがキャリアにビハインドを負う合理的な理由ってあります?
- 育休どうだった?
- 辛いことや不安も多かったけど、それを差し引いても息子との時間は代えがたいものでした。
- 復帰したあとどうだった?
- 半年休んだ程度なら、キャリアとかスキルとか知識に何の問題もなかったです!
件の事件のようなこともまだまだ存在し、手放しに「みんな育休取りましょう!」とは言えない世の中かと思うのですが、 少なくとも自分にとっては貴重な体験でしたし、もっとパパ育休が増えると良いと思っています!
背景
都内在住、30代で夫婦共働きです。 タイトルの通り、私はITエンジニアを生業にしています。 妻は理系大学院を出て研究職として働いており、適切な言葉かはわかりませんがいわゆる「バリキャリ」の部類だと思います。
妻も私も実家は遠く、両親の援助は得られない状況でした。
私は仕事が大好きで、結婚してからも子供ができるまではワーカーホリックのような働き方をしていました。 今でも仕事は大好きですが、少し「好き」の表現の仕方が変わっていて、子供が生まれてからは完全定時ダッシュおじさんになりました。 理解のあるチームで本当に感謝です。
というわけで、このお話は「仕事大好きな人が半年仕事をしない決断をした話」と解釈いただければと思います。
どれくらいの期間?
8月末から、4月頭に保育園に入るまでの7ヶ月と少しです。 最初の半月ほどは、引き継ぎも兼ねて妻に休みをオーバーラップしてもらいました。 9月中旬に妻が職場復帰し、それから4月1日に保育園に入れるまでの期間、パパ1人で奮闘しました。
半年という期間はやはり長くて、最初の一ヶ月を終えた頃は
「やっと一ヶ月か... これが永遠に続くような気がする...」
みたいな感覚でいたのを思い出します。
なぜ育休をとったの?
2017年の1月、息子が生まれました。
早生まれで、(ギリギリ預けられたのですが)0歳で保育園に預けるのは心もとないな... とはいえ、1歳で保育園に入れるまでまるまる妻が休むと1年以上仕事を離れる事になる...
という事情から、妻とお互いのキャリアについて話し合いをする中で、育児休業を取ることを打診され、考えるようになりました。
半年間仕事を休んで子育てにフルコミットしたらどうなるんだろう...と、少しの好奇心が働いたことは否定できませんが、 最終的には以下のことが決め手となり、育休を取ることを決心しました。
育休は法律... だけど、会社の理解があったこと
まず前提として、男性の育児休業は会社の制度ではありません。法律で定められている労働者の権利です。 と書きましたが、恥ずかしながら私も育児休業が法律に定められていることは妻に教えてもらうまで知りませんでした。
...とはいえ現実を見ると、この事自体が知られていなかったり、封殺してしまうような会社が存在することも事実です。
私はサイバーエージェントという会社で働いています。 前述の通り半年以上育児休業を取得し、何の問題もなく復帰を果たしました。 会社にはパパの育休をはじめ、リモートワークなど育児を支援する様々な制度が整備されており、心理的にも実務的にもかなり助けられました。というか今でも助けられています。
今の「社会」では、(残念ながら)この環境は決して当たり前だったり、法律だから前提...などといえる状況ではなく、 とても恵まれている環境なんだと認識しています。
お互いのキャリアにおける「公平」さ
「出産、育児において女性だけがキャリアにビハインドを負う合理的な理由ってあるんだっけ?」
これは妻から言われたのではなく、自問するうちたどり着いた問いです。 もちろん各家庭の状況によると思いますが、結局自分のコンテキストでは答えを見つけられませんでした。
合理的でないから休まない、ということが言いたいわけではありません。
手前味噌ですが、私の妻は仕事人としてとても優秀です。 その妻が働けないことや、キャリアを諦めること自体が間違いなく社会損失ですし、妻を差し置いて自分だけ働く理由がありません。 収入の多寡も関係なく、私にとって、妻と私のキャリアにおいての「公平さ」は決断における大切なファクターでした。
もちろん妊娠中の仕事への影響や、出産前の休暇など含めるとどうしても妻のほうが仕事への影響は大きかったと思うのですが、それでも休んだことに意義はあったと考えています。
そもそも父親です
「自分の息子を(妻はできるのに)一人で世話して育てることが出来ないの?」
という問いがもう一つ決断の柱になりました。 出産や授乳は変わることはできないけど、それ以外のことはパパでもできるし、やるのが当然だと思います。
育休を取る前も、土日は息子と一緒に過ごすことが多かったとはいえ、自分が育児の主体になった経験は今でも非常に役立っています。 たとえば、妻の宿泊を伴う出張にも、何の問題もなく対処できます。
冗長化、大事ですよね!
育休を取る前の仕事の様子は?
育休を取ると決めてからすぐ上司相談にして、そのあと人事に相談しました。 息子が生まれるよりも前、育休に入る9ヶ月以上前でした。早めの相談は会社、チームと自分双方にとって大切だと思います。
初めてその話を上司に切り出したとき、快諾してもらえて、ずいぶん安心したのをよく覚えています。いい会社で働いているなー、と。
その後、同じ部署でチームを異動したり、ということはありましたが、一貫して「自分にしかできない仕事をつくらない」ことを心がけていました。 私はエンジニアなので、担当したタスクのドキュメントを詳細に残す、であったり、基本仕事を進めるときに誰かを巻き込んでバックアップ体制を取る、といった具合です。
もちろん「この人は半年後に休む予定だから...」といって不当に簡単なタスクを割り当てられるようなことはなく、 休みに入る直前まで今の自分のスキルをフルに活かして貢献できる責任ある仕事をやらせてもらっていたし、それをこなしていたと自負しています。
その甲斐もあってか、チームからも快く送り出してもらうことが出来ました。
余談ですが最近では育児休業をとらなくても、普段から属人化を減らしておいたほうが良いなと感じています。 若い頃は「この仕事は自分にしか出来ない...」という謎の使命感、というか自己満足な感情があったのですが、 まあそこそこの規模の会社であれば大体代わりの人はいますし、そうあるべきだと思います。
なお最近では、チームの働き方としてモブプロを採用しており、バス係数=チーム人数でとても安心感があります。
martin-lover-se.hatenablog.com
ITエンジニアは育児休業取りやすい職業なのかな?...と思っていたんですが、なんで取りやすいのか理由を考えてみたら特に浮かばなかったです。 他の業種はやったことがないのでわからないですが。会社が先進的だ、というだけかもしれません。
何れにせよ、会社や上司の理解があること、はもっとも重要なファクターであると考えます。
育休中の様子は?
平日の過ごし方
全力で専業主夫をこなしていました。
とはいえ家事は妻と折半ですし、ママ友の話を聞いていてもほかの専業主婦ママよりはだいぶユルかったと思いますが... まあ、あまり頑張りすぎないのも大切だったかなと思います。 (世のママさん、パパの家事のアラは少し大目に見てやってください...)
朝ごはんを作って、息子と妻に食べてもらって妻を送り出して、
日中は公園にお散歩に行ったり、公民館や地域のイベントに出かけたり。
帰ってきたら息子といっしょに「おかあさんといっしょ」見て、ブンバボン歌って。
晩御飯の準備して、息子をお風呂に入れたらあっという間に夜... という具合ですね。
なお我が家では家事と育児は私と妻で2等分です。 私が働いて妻が休んでいるときもそうでしたし、共働きに戻った今でもそうしています。
全力で1週間育児にコミットした方ならご理解いただけると期待するのですが、特に子供が小さいときは、仕事より育児のほうが負荷が高いです。 もちろん業種業態にもよると思いますが、少なくとも私にとってはそうでした。 冗長な構成を取ることはやはり大切だと考えます。
良かったこと
何をおいても、息子とゆっくり、たくさんの時間を共有し、成長著しい時期を共に過ごせたことが最高でした。
育休に入った頃にはおすわりもおぼつかなかった息子が、
ハイハイを初めて、タッチできるようになって、高ばいできるようになって。
歩き始め... る前に残念ながら休み明けてしまいましたけど。
言葉が出始めて、「ママ」より「パパ」をたくさん言ってくれたり(一緒にたくさん練習したからね)
食べ物を選び始めて、人見知りしだしてずーっとパパにしがみついてて。
時間は巻き戻りません。長い仕事人生の中でたった半年キャリアを欠損したとしても、代えがたい思い出を得られました。 もちろん育児休業を取らなくても思い出は作れると思いますが、長い時間を共にして、しっかりと息子と信頼関係も築けたと考えています。
最近「ママがいい〜」とか言われますけど...。
特筆事項として、電動自転車の導入でとても心が軽くなったことを書き残しておきます。 1歳くらいから乗れるようになるのですが、それまではベビーカーや抱っこ紐、あるいは両方持っての移動でした。
抱っこ紐やベビーカーでの移動はとても大変だし、公共交通機関を使うにも気を使うし、遠くに移動できないし...行動範囲も狭くなりがちです。 それが電動自転車の導入で移動がとても楽になり、行動範囲も広がってそれだけで心がとても晴れやかになったのをよく覚えています。
コスパ最高なので1歳になったら是非購入をご検討ください。
辛かったこと
一番つらかったのは、「社会から隔絶されている」と感じてしまうことです。 いま冷静に考えると実際にはそんなことはないし、完全な勘違いなのですが、やはり大人とのコミュニケーションが減って、視野が狭くなりがちだったと思います。
具体的な辛かったことと、その対処をいくつか紹介します。
子供の命を預かる不安
これは完全に当たり前で、世の中のすべてのパパママがそうなのですが、 休日を息子と2人で過ごすことは多くあったにもかかわらず、最初のママがいない平日の不安な気持ちをよく覚えています。
少しのミスが息子の命にかかわるのではないか...という。
この不安は慣れによってだんだん緩和されていったのですが、 育児本を読んだり、地域イベントの小児救急ワークショップに参加したりして「もしも」に備える行動を取ることで、少しずつ自信がついて解決していきました。
パパコミュニティがないのが辛い
平日の昼間に、1歳の子供と遊びに行くところといえば
- 公民館
- 子育てセンター
- 保育園(主にイベントごと)
- 公園
あたりがメインになると思うのですが、驚くほどパパと子供だけで遊びに来ている親子が少なかったです。 半年間で片手に収まる程度、とかそういうレベルです。 パパも5%くらい育休取得しているはずなのですが... 。 たしかに、私も初期のころはパパと子供だけでイベントごとに遊びに行くことの心理的なハードルは結構高かったです。
当然、地域の子育てコミュニティはママで構成されていて、パパ育休の不安や悩みを共有できる人がいないのが辛かったです。
地域のママたちと共通の話題はもちろんあるのですが、やっぱりママだけのところにパパが居ると、授乳のこととか話しづらい話題もあるんだろうな...と言う空気を勝手に感じてしまっていたりしました。
これも時間が解決してくれて、結局、解は「ママコミュニティに参加すること」でした。 だいたい曜日替わりでイベントごとがあるのですが、毎週通っているとよく会うママや子供と自然に会話します。 ママたちも、パパの参加は珍しいのでよく話しかけてくれます。こちらが壁を作らなければ、案外あっさり溶け込めました。
とくに「プランケット」というイベントに参加できたことはとても幸運でした。 ここで出会ったママ友のみなさんと、助産師の田中先生には本当に救われました。 気兼ねなく話せて、悩みを相談&共有できる場で、毎週楽しみに通わせていただきました。
仕事も勉強もしてない、という事実が辛い
育休を取りながらの勉強、できる人はできると思いますが、自分にはほぼ無理でした。
技術が進んでるんじゃないか...
仕事が進んでるんじゃないか...
勉強できてない... 本を読むことすらできてない...
と、ネガティブ思考の悪循環に陥ってしまう期間もありました。
子供が寝る30分とか、寝付いたあととか、ちょっとした空き時間は毎日できます。
勉強しなきゃ... コード書かなきゃ...
でも自分も疲れてて寝てしまう... ああ、明日こそ...
後述しますが結論、半年休んだ程度でエンジニアとしてのウデはどうこうならないので、まったく心配する必要はなかったです。 そんなことで頭と心を悩ますぐらいならいっそきっぱり忘れて、息子と笑顔で過ごすことのほうがよっぽど大切で有意義だったと思います。
保活が辛い辛い&辛い
保活の辛さと、それをどう乗り切ったかは以前ブログに書きました。
martin-lover-se.hatenablog.com
東京の保活はとにかくヤバイです。語彙が貧困で申し訳ないのですが、本当にヤバイです。
世のパパたち、絶対にママひとりに保活を任せてはいけません。
世のパパたち、絶対にママひとりに保活を任せてはいけません!!!
復帰したあと
結果的に、育休前に所属していたチームに戻れることになって最高でした。
PCのセットアップやら、慣らし保育のための早退やらで1週間位はあたふたしましたが、まあ自分で言うのもアレですが半年間働いてなかったんだっけ?というくらいスムーズに職場復帰できたと思っています。 自分の中でも、すごく自然に「働いている自分」に戻る事ができました。
これはやはり会社、そしてチームと上司の理解が大きいです。 安心して働ける環境だったからこそ、すぐに自分の最高のパフォーマンスを発揮できたと思います。
「技術の進歩は早い!学び続けないと!」はエンジニアにとってもちろん常にTrueです。 ですが、ぶっちゃけたった半年休んだ程度で追いつけなくなるほどではないと思います。 半年も働かなかったらコードの書き方とか綺麗サッパリ忘れちゃうんじゃないかな?とか心配していたのですが、全く、一ミリもそんなことはかったです。
何より、この経験を通じて会社とチームに対するエンゲージメントがMAXに高まりました。 復帰してから、以前にもまして会社のため・チームのために自分ができることを考え、自分で自分をモチベートして実践するようになりました。 会社から見ても、これは長期的な視点で費用対効果があるのではないでしょうか?
まとめ
共同参画によると、2017年ではパパ育休の取得率は5%ちょっと、2020年には13%を目指しているそうです。 Twitterなどを見ていても、冒頭紹介した記事のようにパパが育休を取得するケースは確実に増えてきているように感じます。
一方、半年以上育児休業を取得するケースはあまり見かけないし、ママが職場に復帰してパパと子供だけになるケースはもっと稀だろうと思い、経験を共有してみました。
再三ですが、私は半年以上休みましたが何の問題もなく復帰していますし、休む前と同様に、いや休む前以上に仕事を楽しんで、成果を出していると思っています。
こういう事例もあるんだよ、ということが少しでも伝わり、男性の育休取得の後押しになれば。
女性が活躍する社会が叫ばれて久しい昨今、保育園の拡充や、職場復帰しやすい、子育てしながらでも働きやすい社会制度はもちろん重要です。
同様に、パパの育児へのコミットと、それに対する社会の理解も重要なファクターではないでしょうか。
その意味では、僕が働いているサイバーエージェントは最高に働きやすい会社ですが、 世の中ももっともっと多様性に寛容になって、子育て世代が働きやすくなるといいな、そんな未来の実現に少しでもこの記事が役に立つといいなと思います。
追記 2019.6.10 「育児休暇」ではなく「育児休業」とご指摘をいただき、文中の該当箇所を修正しました。